この記事を読まれている方は、愛犬が僧帽弁閉鎖不全症と診断されて、そのお薬を飲ませている飼い主様かと思います。
とはいえ、その中には、
- 突然心臓が悪いと言われて、高額な薬を沢山処方された
- お薬を飲ませているがなんの目的かわからない
- とりあえず言われたからお薬を飲ませている
そんな方もいらっしゃると思います。
事実、僧帽弁閉鎖不全症に対してはお薬の内服は非常に重要な治療方法です。
しかし一体どんな効果があってなぜ飲まなければいけないのか、そんな説明を受けられなかった飼い主様もいると思います。
そんな飼い主様向けに、この記事では、
- 僧帽弁閉鎖不全症で使われるお薬の種類
- それぞれのお薬の特徴
- 僧帽弁閉鎖不全症のお薬に対するよくある質問と答え
について、現役の獣医師がわかり易く解説いたします!
僧帽弁閉鎖不全症のお薬について詳しく勉強したい方にも最適です!
この記事を読むことで、より安心して、安全に僧帽弁閉鎖不全症のお薬と付き合っていくことができるようになります。
それでは本題にいきましょう。
僧帽弁閉鎖不全症は心臓の弁が壊れてしまう病気
まずはお薬の前に、僧帽弁閉鎖不全症のメカニズムについて解説します。
心臓は体中に血液を巡らせるポンプとしての役割を持っています。
その血液の流れを一方向に維持し、逆流しないようにするために、心臓の中には複数の弁が存在します。
肺からきた血液を全身に送るために左心房と左心室という部位があり、この間にある弁を「僧帽弁」呼びます。
本来はこの僧帽弁がしっかりと閉まることで、血液の流れを一方向に保ち、ポンプとして血液をしっかりと送り出せます。
僧帽弁閉鎖不全症とは、この僧帽弁がきちんと閉まらなくなり、血液が逆流してしまう病気です。
それにより、肺から送られてきた血液をうまく全身に送り出せずに、ポンプとしての機能が低下してしまいます。
さらには、左心室という部位に多くの血液がたまり、負担がかかることで、心臓の形もどんどん悪くなってしまいます。
僧帽弁閉鎖不全症で使われるお薬
先ほど説明した通り、僧帽弁閉鎖不全症は、弁がしっかりと閉まらず、心臓に負担がかかる病気でした。
それに対して、
- 心臓の負担を和らげ、ポンプとしての機能をしっかりと保つこと
これが、僧帽弁閉鎖不全症にたいしてお薬を処方する目的になります。
僧帽弁閉鎖不全症は慢性的な疾患で、その進行度合いにより、使用される薬が変わってきます。
それでは実際にどのようなお薬が治療に用いられるのでしょうか
実際の治療では、
- 心臓の動きを活性化する →ピモベンダン
- 血管を広げて心臓の負担を減らす →ACE阻害薬
- 体に溜まってしまった余分な水分を減少させる →利尿薬
といった目的のお薬が使用されます。
ここからは、それぞれのお薬について詳しく説明していきます。
ピモベンダン:心臓の動きを活性化させる
ピモベンダンは強心薬で、弱ってしまった心臓の働きを改善させる効果があります。
心臓の筋肉を活性化させることで、心臓の収縮力を強化し、血液の流れを改善させます。
ある程度進行したステージからこのピモベンダンを投薬することで、心不全の発症リスクを減らすことも示されています。
僧帽弁閉鎖不全症の治療の軸になるお薬です。
ピモベンダンの詳しい効果や使用上の注意、副作用などについてはこちらを参照してください。
犬猫お薬解説-ピモベハート、ベトメディン(ピモベンダン)の効果や副作用、飲ませ方を現役獣医師がわかりやすく解説!
ACE阻害薬:血管を拡張して心臓の負担をへらす
ACE阻害薬と呼ばれる薬は、血管を拡張させることで、血圧を下げ、全身に血液を送りやすくする効果があります。
出口から血液を出やすくすることで、心臓への負担を減らします。
また、直接心臓の筋肉を保護する効果もあります。
いくつかの種類のお薬が出ており、代表的なものとしては
- ベナゼプリル(フォルテコール)
- アラセプリル
- テモカプリル
- カプトプリル
といったお薬が存在します。
それぞれのお薬の詳しい効果や使用上の注意、副作用などについては以下のリンクを参照してください。
お手元にあるのお薬と合致するものを探してみましょう。
ベナゼプリル(フォルテコール、ベナゼハート、ワンハート)の効果や副作用、飲ませ方わかりやすく解説!
アラセプリル(アピナック)の効果や副作用、飲ませ方を現役獣医師がわかりやすく解説!
テモカプリル(エースワーカー)の効果や副作用、使い方を現役獣医師がわかりやすく解説!
利尿薬
利尿薬はおしっこをたくさん出させ、血液の全体の量を減らす効果があります。
血液の量が減ることで、心臓への負担を軽減することができます。
また、僧帽弁閉鎖不全症の終末段階として、うまく回せなかった血液の水分が肺に溜まってしまう肺水腫という病態があります。
肺水腫は肺に水が溜まって、溺れているような状態。
命に危険が及ぶ緊急事態です。
この状態の場合に、肺に溜まってしまった水をおしっことして排泄するために利尿薬が用いられます。
利尿薬は主に、
- フロセミド
- トラセミド
- スピロノラクトン
といった種類があります。
それぞれのお薬の詳しい効果や使用上の注意、副作用などについてはこちらのリンクを参照してください。
【獣医解説】フロセミド(ラシックス)の効果や副作用をわかりやすく解説!
その他のお薬
その他にも
- 抗不整脈薬
- 鎮咳薬
- 肺高血圧の治療薬
などのお薬も僧帽弁閉鎖不全症の治療に用いられます。
よくある質問
ここからは僧帽弁閉鎖不全症のお薬について、よくある質問についてまとめました。
お薬を飲めば僧帽弁閉鎖不全症は治りますか?
お薬だけでは僧帽弁閉鎖不全症は治りません。
あくまで心臓の負担をへらし、症状を緩和するためのお薬であるため、基本的にはこの先まで飲み続けなければなりません。
根本的な治療を行うには、外科手術が必要になります。
お薬を飲ませ忘れたらどうすればいいですか?
基本的に思い出したらすぐお薬を飲ませてください。
僧帽弁閉鎖不全症のお薬は、心臓の負担を和らげるために飲ませています。
もしお薬を切らしてしまうと、心臓の負担が増加し、心機能が破綻してしまう危険性があります。
飲ませわすれた場合はすぐにお薬を飲ませるようにしましょう。
個別の解説ページに、具体的にどうすればいいか詳しく解説してありますよ。
自宅でできることはなにかありますか?
自宅ではなるべく安静にして、激しい運動は避けるようにしましょう。
お散歩ができるかどうかはかかりつけの先生と相談して決めましょう。
他にも、寝ているときの呼吸数を定期的に数えてみて、呼吸の回数が1分間に40回を超えてくるようなら病態が悪化している可能性があるので、すぐに動物病院に連絡をしましょう。
まとめ 僧帽弁閉鎖不全症で使われるお薬について
僧帽弁閉鎖不全症では、心臓の負担をへらし、ポンプとしての機能を維持するために、
- 心臓の動きを活性化する
- 血管を広げて負担を減らす
- 体に溜まってしまった水分を減少させる
といった目的の複数のお薬を組み合わせて治療を行います。
これらのお薬を適切に利用して、僧帽弁閉鎖不全症とうまく付き合っていきましょう。